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「米国人のための食事ガイドライン2015―2020」発行 コレステロールの摂取推奨値を削除

2016.02.05発行
 米国保健福祉省(HHS)と農務省(USDA)は1月7日、新しい『米国人のための食事ガイドライン2015―2020』を発行した。旧ガイドラインで“1日300ミリグラム以下”としていたコレステロールの摂取推奨値は「食事ガイドライン諮問委員会」が昨年2月に「コレステロールは摂り過ぎが心配される栄養素ではない」と答申したことを受け、削除されている。
 同ガイドラインは、米国人が肥満や2型糖尿病、高血圧、心臓病などの生活習慣病を予防するために、望ましい栄養摂取の内容を科学的根拠に基づいて示したもの。両省は「信頼されている国の情報源であり、国民が家庭、学校、職場、地域で摂取する栄養を確かな情報に基づいて選択するのを助けるために、一般市民だけでなく保健の専門家、政治家ら政策立案者にも提供されるものである」とし、米国民の食生活や、量販店の品揃えなどに一定の影響力があるとされる。
 諮問委員会の答申やパブリックコメントの募集などを経て、少なくとも5年ごとに改定され、今回が第8版になる。科学的研究の進展に伴い内容は毎回変化し、今回は個々の栄養に注目するのではなく、人々が生涯にわたり摂取する食品や飲料の多様さなど食事全体のパターンを重視している。
 全体としてバラエティに富んだ食事を推奨し、食品別では各種の野菜、果物(果実全体)、穀物(半分以上は全粒穀物に)、植物油、魚介類、低脂肪の乳製品、赤身肉、食鳥肉、卵、豆類、大豆製品などを幅広く摂取するよう提言している。
 一方、摂取を控えるよう勧告しているのは、飽和脂肪(1日の摂取カロリーの10%未満)、糖分添加食品(同)、トランス脂肪(できるだけ)、塩分(1日2300ミリグラム未満)など。糖分の摂取制限は初めて加わった一方、コレステロールの摂取推奨値が削除された。
 ガイドラインの推奨内容を満たす健康的な食事のパターンとして、米国式と地中海式、ベジタリアンの3例を示し、米国式で1日2000キロカロリー摂取する場合、たんぱく源としての食肉と食鳥肉、卵の週当たり合計摂取推奨値は、旧ガイドラインと変わらず26オンス(約737グラム。食品の水分量や密度によりたんぱく源としての重さの評価が異なり、鶏肉は実際の重量通り、卵はラージサイズ1個が1オンス〈約28グラム〉のたんぱく源と換算される)としている。なお、卵の特長については、コリンの最大の供給源と紹介されている。
 お酒は種類によって異なるが、「女性は1日1杯まで、男性は2杯まで」としている。

「食事性コレステロール」の項の概要

 同ガイドラインの栄養素別の解説から、「食事性コレステロール」の項の概要を紹介する。
     ◇
 人はコレステロールを生理的、構造的機能に使っているが、これらの目的を満たす量より多く体内で生成されるため、食事で摂取する必要はない。
 2010年版のガイドラインでは、食事からのコレステロール摂取量を1日300ミリグラム以下に制限していたが、2015年版からはその制限がなくなった。ただ、これは健康な食生活を形づくるために、コレステロールには注意しなくてよくなったということではない。米国医学研究所の勧告通り、できるだけ少なくすべきである。一般的に、油脂分が多い肉や乳製品などコレステロールの多い食品は、飽和脂肪も多い。米国農務省の食品指標では飽和脂肪を制限しており、コレステロールと飽和脂肪を含む食品が共通していることから、同指標に示された食事性コレステロールも少ない。例えば、健康的な米国式の食事パターンは100〜300ミリグラムのコレステロールを含む。1歳以上の米国人のコレステロール平均摂取量は、1日約270ミリグラムである。
 ほとんどの前向きコホート研究や無作為化比較試験で、食事性コレステロールの少なさは心血管疾患のリスクの低さと明確な相関があり、肥満のリスク低減にも関連がみられる。前述した通り、食事パターンは多様な食品の組み合わせにより構成され、健康に影響するのはその食生活全体であり、必ずしも個々の栄養成分が影響するわけではない。食事からのコレステロール摂取量と血中のコレステロール濃度との関係については、さらなる研究が必要であり、食事性コレステロールの摂取制限値を本ガイドラインで示すのに適切な科学的根拠はない。
 食事性コレステロールは、卵黄や乳製品、甲殻類、食肉、食鳥肉などの動物性食品にのみ含まれている。ただしわずかな食品、とりわけ卵黄といくつかの甲殻類は、食事性コレステロールは多いが、飽和脂肪は少ない。卵とこれらの甲殻類は、推奨されたたんぱく食品群として、他の多様な食品とともに摂取することができる。

解説

 新たな『米国人のための食事ガイドライン』では、コレステロールの摂取推奨値は削除されたものの、栄養素別の解説には、「コレステロールには注意しなくてよくなったということではない」や「できるだけ減らしたほうが良い」など、コレステロールが危険であるかのような記述が残っている。
 ただ、内容を読み進めると、@コレステロールが高い食品は、同時に含まれる飽和脂肪が危険なので注意すべきA卵や一部の甲殻類は、飽和脂肪が少ないため例外である――と説明していると理解できる。食品に含まれるコレステロールの量と、血中コレステロール値を明確に関連づける科学的研究成果が出ていないことにも言及している。
 今号のブルース・グリフィン博士の講演にもあるように、コレステロールによると考えられていた悪影響が、実は飽和脂肪によるものであった可能性についても、学術的に検討されつつあるようだ。
 ただ、それであれば飽和脂肪だけに注意を促せば良く、なぜコレステロールに注意を促しているのかが分かりづらい。また、日米の間で食生活や人種による違いもあるようだ。この点について、脂質栄養の専門家で、「コレステロール値が高いほうがずっと長生きできる」などの著者で知られる浜崎智仁富山大学名誉教授(元日本脂質栄養学会会長)に解説していただいた。

歯切れ悪いガイドラインの説明 浜崎智仁氏

 このガイドラインの「コレステロール摂取」の部分を読むと、歯切れが悪く、いままで制限していた栄養素を正当化するのに四苦八苦しているようにみえる。要は、コレステロールの摂取を多くすると、飽和脂肪酸が増えるため、良くないと言いたいようだ。
 この問題は根が深く、正確な認識がされていない。以下にいくつかの要点を挙げてみる。
 @コレステロールの摂取を増やしても、血中コレステロール値がほとんど上がらないことは、何十年も前から分かっていること。
 A日本人について言えば、血中コレステロール値は、50年以上にわたりどんどん上昇し続けているが、冠動脈疾患死(心筋梗塞などで死ぬこと)は徐々に減っている。脳血管疾患死に至っては、この50年間で約10分の1に減っている。いろいろと問題のある疫学調査を1つ除き、すべての大規模な疫学調査で、「血中コレステロール値が高いほうが、総死亡率は低くなる(コレステロール値が高いと長生きする)」との結果が出ている。
 B日本の疫学調査では、飽和脂肪酸の摂取量が多い方が、心血管疾患による死亡率が低くなる(飽和脂肪酸はきわめて安全で、食べても血糖値が上がらない)。
 以上より、『米国人のための食事ガイドライン』のコレステロールに関する部分は、長寿の国の日本の現実とは矛盾する。栄養学は新しい時代が始まり、コレステロールを中心とした古い考え方は徐々に力を失っていくが、昔からのコレステロール理論をふりかざしている学者たちは、現実との差に苦労し始めているようだ。



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