第3回タマゴシンポジウム 最新の研究情報などを報告

タマゴ科学研究会(菅野道廣理事長)は6月12日、東京都文京区の東京大学農学部キャンパス弥生講堂一条ホールで『第3回タマゴシンポジウム』を開いた。
同研究会は「鶏卵に関する研究や情報が集まる、学術的に中立な場をつくること」などを目的として2013年2月に設立。『タマゴが創る未来の食生活』をテーマにした同シンポを毎年開いている。
東京大学大学院農学生命科学研究科附属食の安全研究センターの関崎勉センター長と、菅野理事長(九州大学・熊本県立大学名誉教授)があいさつし、菅野理事長を座長に、東洋大学食環境科学部の近藤和雄教授(お茶の水女子大学客員教授・名誉教授)が『タマゴと食生活~より良く生きる未来のために~』のテーマで基調講演。
第一部は、東京大学の阿部啓子名誉教授を座長に、東京家政大学大学院の峯木眞知子教授が『構造から見たタマゴのおいしさ』、京都女子大学の八田一教授が『透明卵白ゲルの物性とその応用』について講演。
第二部は、食の安全研究センターの局博一特任教授を座長に、キユーピー㈱研究開発本部商品開発研究所タマゴ開発部の指原信廣氏(農学博士)が『鶏卵の安全性サルモネラを中心として』、東京大学大学院農学生命科学研究科の小林彰子准教授が『卵黄コレステロールの腸管吸収と食品成分によるその制御』、女子栄養大学の田中明教授が『メタボリックシンドロームの食事療法における卵白タンパク質の活用』について講演。岐阜大学の渡邊乾二名誉教授のあいさつで閉会した。

近藤氏の基調講演
基調講演の中で近藤氏は、コレステロール摂取量と血中濃度の関係について「脂質関係の専門家の間では、一定のレスポンダー(摂取量に反応して血中濃度が上がる人)はいるものの、コレステロールを摂取しても、血液中のコレステロール値がそれほど上がらないことは、ある意味での常識であった」とし、近年の大規模な疫学調査などから、卵とコレステロールの関係について正しい理解が広がったことで、今年度版の『日本人の食事摂取基準』でコレステロールの摂取目標量(上限値)が撤廃されたほか、今秋に策定予定の『米国人のための食事ガイドライン2015』でも、摂取目標量が姿を消す流れとなっていることを紹介。
結論として「そもそも日本人は、(心筋梗塞など)虚血性心疾患による死亡率が世界中で最も少ない。現在の食生活で、ほぼ問題ないことをまず認識すべきである」「健常人では、卵を1日1個程度食べても問題はない。卵には様々な栄養素が含まれているため、健康のため上手に摂取するのが良いと考えられる」とした。

峯木氏の講演要旨
峯木氏は、様々な卵料理の官能試験や調理実験の結果のほか、卵黄を構成する小さな球体『卵黄球』に注目した研究内容を紹介。
卵黄球は非常に壊れやすく、卵を激しくかき混ぜたりするとすぐに消えてしまうものの、峯木氏らは新鮮な殻付卵やゆで卵の卵黄球は、球体が互いに接することで多面体となっていることを突き止めたほか、卵黄球は卵1個に推定で180万個入っていること、大きな鶏卵には大きな卵黄球、小さな鶏卵には小さな卵黄球が入っていること、卵黄球の形状が料理のでき上がりやテクスチャー(食感)にも影響していることなどを解説した。

八田氏の講演要旨
八田氏は、同氏が約30年前に取り組み、卵の面白さに感動して研究者を目指すきっかけとなった、透明なまま固まった卵白をつくる研究を紹介した。
卵をゆでると白身は白く濁るが、同氏はピータンが透明なまま固まっていることにヒントを得て、卵白のpHを強アルカリ性にするなど必要な条件を整えて加熱したところ、半透明や透明のまま固まった卵白をつくることに成功。透過型電子顕微鏡などで構造を調べると、透明な卵白は、分子と分子の間の電気的な反発力などの絶妙なバランスによって卵白の主成分であるオボアルブミンの分子が、寒天のように一直線に緻密に固まっていることが分かり、このため透明に見え、白濁した卵白より強度や保水性、弾力性が高くなっていることなども解明した。
この研究成果は、しなやかなコシのある中華麺の開発に役立てられたものの、透明な卵白は強いアルカリ性にしないと作れなかったため、八田氏はその後も研究を続け、中性でも透明なまま固まる卵白をつくる方法や、おいしいオムレツができる乳化性の高い卵白の開発に成功したことなどを紹介した。

指原氏の講演要旨
指原氏は、サルモネラなど畜産物で問題となる病原体の紹介を通じて、国産鶏卵の安全性が高まってきた歴史を分かりやすく解説した。
サルモネラ・エンテリティディス(SE)については、1888年にドイツのゲルトネル医師が発見し、英国では1980年代からサルモネラ食中毒が顕著に増加(1988年にエドウィナ・カリー厚生大臣が「鶏卵はサルモネラに汚染されている」と発言して鶏卵消費量が急減)したこと、インエッグ汚染の原因となる親鳥が日本に入ってきたのは1989年とみられていることなどを説明。
英国のハンフリー博士が行なった試験で、サルモネラ感染鶏が保菌卵を産む割合は2%程度であったことや、かつて3000個に1個とされた鶏卵の汚染率が、養鶏場によるサルモネラワクチンの導入や飼料、飼養管理の改善などの努力により、3万5000個に1個(10万5000個のうち3個)のレベルまで下がっていることも紹介した。

小林氏の講演要旨
小林氏は、血中コレステロール値が高めの人は、腸管からのコレステロール吸収を抑制することで、体内のコレステロール量を減らすことが非常に有効な手段の一つになると説明。
卵白がコレステロールの吸収を抑制する仕組みを調べた実験を紹介したほか、高脂血症治療薬「エゼチミブ」は、コレステロールを腸管に吸収するたんぱく質「NPC1L1」の働きを阻害してコレステロール値を下げることから、この薬と同じ作用をもつ食品を探したところ、りんごや玉ねぎなどに含まれるポリフェノール「ルテオリン」と「ケルセチン」が、NPC1L1の発現や働きを阻害することを見出したため、その効果の裏付けやメカニズムの解明のために実施した様々な試験を報告した。

田中氏の講演要旨
田中氏は、メタボリックシンドローム(代謝症候群)になっているかどうかを知るためには、BMI(体重〈キログラム〉を身長〈メートル〉の2乗で割った数値)より、内臓脂肪の面積を測るほうが適していることや、女子栄養大学ではメタボの改善に向けて専門家が直接指導するプログラム(運動や食事、グループディスカッション、生活習慣の指導などを組み合わせ、半年間で15万円)を47年間続け、成功率9割以上と高い効果を上げていること、メタボに関連する遺伝子多型(遺伝子の個人差)が、運動や食事療法にどんな影響を与えるかを試験したことなどを紹介。
なお同試験では、脂肪が燃えにくい多型を持っている人でも、それを考慮した栄養療法によりメタボの是正が可能であるなど、肥満対策に関しては「遺伝より環境や栄養」が重要なことが明らかになったとのこと。
タマゴに関する研究成果では、毎日1~2個の卵黄を3週間食べ続けた学生40人のうち、7割(28人)はLDLコレステロール値が上昇し、3割(12人)は低下したため、腸管でのコレステロールの吸収や、肝臓での合成がどう変化したかを調べたところ、「コレステロール値が上昇した人は吸収が増え、低下した人は合成が減っているとみられることが分かった。同じコレステロールを食べても、血中濃度が上がる人と下がる人がいることが分かってきたため、これからは食事療法でも体質をチェックしながら指導しなければならない時代になっていくのではないか」と述べた。
「卵白を摂取すると体脂肪や内臓脂肪が減少する」との試験結果が動物実験で出ていることから、風味を良くして食べやすくした乳酸発酵卵白(キユーピーの『ラクティーエッグ』)を軽度肥満の成人男性に12週間食べてもらったところ、内臓脂肪が有意に減少する結果が得られたことも紹介した。
【東京大学農学部キャンパス弥生講堂で開かれた第3回タマゴシンポジウム】

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