LDLコレステロールで研究成果 『健康な人』は数値高め 高齢女性は190でも“基準範囲” 日本人間ドック学会と健保連の調査研究

(公社)日本人間ドック学会(奈良昌治理事長)と、健康保険組合連合会(健保連、大塚陸毅会長)は4月4日、健診データを基にした調査研究の中間報告を公表し、この中で健康な人のLDLコレステロール値(基準範囲)の上限値が、同学会のガイドラインで「異常なし(A判定)」とする値より大幅に高く、年齢や性別によっては「要経過観察(C判定)」や「要医療(D判定)」と判定される数値だったことを明らかにした。
今回の「基準範囲」は、人間ドックの受診者約150万人のデータから、健康とみられる約34万人を抽出し、その中から選び出した約1万~1万5000人の『超健康人』の血圧や血糖値、コレステロールなどの数値から決めたもの。人間ドックなどの健診時に各数値がこの範囲内に収まると、検査時点では「健康な人」と言える。
新「基準範囲」の大部分は、同学会のA判定値や関連の専門学会の基準値と近かったが、“悪玉”とされてきたLDLコレステロール値は、45~60歳の“超健康”な女性の間で特に高かったことなどから、女性の基準範囲は年代別に分けて30~44歳が61~152、45~64歳が73~183、65~80歳が84~190、男性は72~178となるなど、上限値がA判定値(男女・年齢を問わず60~119)を大幅に上回り、45歳以上の女性はD判定値(180以上)も超える結果となった。
総コレステロール値の基準範囲も、女性は30~44歳が145~238、45~64歳が163~273、65~80歳が175~280、男性は151~254となるなど、年齢・性別を問わず上限値がA判定値(同140~199)を大幅に上回り、45歳以上の女性ではD判定値(260以上)を超えた。
検査時に「健康な人」のコレステロール値が、既存のガイドラインでは「要経過観察」や「要医療」などと判定されていることになるが、同学会によると、「基準範囲」はあくまで“検査時点で健康な人々の検査数値”で、その後の発症リスクなどを考慮に入れていないことから、健診で治療が必要かどうかを決めるガイドラインの判定値とは異なるとのこと。
ガイドラインの値を改訂するには、この“超健康人”の集団が今後何らかの疾病を発症しないか追跡調査する必要があるとのことで、両団体は6月中に最終報告書をまとめ、さらに数年間の追跡調査を行ないながら、新たな判定値を同学会のガイドライン委員会などで検討していくことにしている。

泥沼化するコレステロール論争

今回の新「基準範囲」の策定は、現基準が健診機関によってまちまちなため、全機関の共通基準の設定が望まれていたことや、また人間ドックの有用性の一層の明確化や医療費の適正化に資する目的などから、両団体が取り組んだもの。
基準範囲の各数値は、膨大なデータを基に、きわめて科学的な統計処理を経て洗い出されており、同学会は公表資料の中で、「150万人規模のメガスタディー(大規模研究調査)は、今までにない調査結果であり、今後、健診機関の共用基準範囲として健診の現場で用いられることが期待される」とコメントしている。
ただ、一部の日刊紙が基準範囲とガイドラインの判定値を混同し、健診のA判定のラインがすぐに緩和されると誤解されるような報道をしたため、各紙で“火消し報道”が相次ぎ、日本動脈硬化学会は「このような誤解を生じる可能性のある人間ドック学会の『基準範囲』は日本国民の健康に悪影響を及ぼしかねない危険なもの」とまで言い切って強く批判する見解文をリリースした。
ただ、近年は高血圧治療薬の売上高を増やす目的で行なわれたデータの不正操作が明らかとなるなど、薬や科学への信頼が揺らいでいる。コレステロール値を下げる薬「スタチン」の市場規模も約2500億円に上ると言われる。高齢者の健康のために、どのような対応が最善なのか、少なくとも今回の『超健康人』の集団の追跡調査が科学的にしっかり行なわれることが期待される。

「LDLも善玉コレステロール」富山大の浜崎教授

今回の中間報告について、脂質栄養の専門家で、「コレステロール値が高いほうがずっと長生きできる」などの著書で知られる富山大学の浜崎智仁名誉教授(元日本脂質栄養学会会長)は、「LDLコレステロールが“悪玉”と呼ばれるようになったのが混乱の始まりで、善玉とすれば話は分かりやすくなる。善玉だから高いままで良く、実際に高いほうが死ににくい。遺伝による家族性高コレステロール血症の人などを除けば、健康な人には高コレステロールの人が多く、特に高齢者では日本だけでなく世界中で高コレステロールの人たちの方が長生きしている」とコメントしている。

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